前回、前々回ととある海で起こった事件について思うところを書いてみた。
しかし、肝心のタイトル、「水中でパニックになるということ」について何一つ書いていないことに気が付いた(笑)
ので、改めて。
水中は、当たり前だが普通に呼吸はできない。
圧縮空気を背負って、その限りある空気の中で呼吸をしなければならない。
当然だが空気がなくなってしまえば人間は死んでしまう。
そもそも結構大変な状況下に自ら飛び込んでいっているのだ、我々ダイバーは。
そんなある意味極限状態の中で、なにか自分の想定外のことが起こると、人間は容易にパニック状態に陥る。
もう死ぬかもしれない。
本当に切実に現実としてそんな風に思ったことが、あるだろうか?
経験したことのない人の方が多いだろう。
しかも、素晴らしく美しい景色の中で、楽しくて、この上ない幸せを感じているその瞬間が、一瞬にして
本当に死んじゃうかもしれない
に変わるのだ。
その精神的な圧力と言ったら並大抵ではない。
いくら経験を積んでも、本当の本当の本当に死ぬかもしれないと思ったら、怖いのは誰だって同じだろう。
そうならないために、人々は色々な経験とルール、技術を磨いてきているのだ。
前回の記事では、レギュに水が入ったために大慌てで浮上した男性の話を書いた。
通常であれば、レギュに水が入る、なんていうのはごく当たり前にあることで、それくらいでパニックになっているのではオープンウォーターライセンスも不合格ということになるが、水が入って勢いよく吸い込んで飲んでしまい、しかもそれが肺に入ってげっほげっほむせるということにまでなったら、ちょっと大変かもしれない。
けれど実際は、それでも別に浮上しなけりゃならんほどでもない。
水中でゲホゲホやればいいだけの話である。くうきは吸えるんだし。
水中でのパニックの要因は、おそらくほとんどがそのトラブルの意外性だろう。
パーティの最後尾にいて、オクトが岩に引っかかって動けなくなり、ガイドさんがそれに気づかずどんどん行ってしまう…やばい取り残される!
なんていうのも、一歩間違えばパニックになる要因だ。
これらのことはすべて落ち着いて対処しさえすれば、たいていはパニックになんてならなくて済む。
それなのに、水中という状況を追加するだけで、何でもないことがあっという間にパニックを引き起こしてしまうようになる。
それらは直接的には水を飲んだり動けなくなったりということが引き金かもしれないが、すべての根本は、
落ち着きを忘れてしまうこと
が、原因だ。
落ち着けば、口に入ってきた水は吐けばいい。パージボタン押せばいい。むしろ飲んじゃったっていい。
引っ掛かったオクトは外せばいい。なぜか動けなくなってしまったのであれば、原因はオクトか残圧計かホースか。とにかくそれらのことしかほとんど考えられない。
おしりが大きすぎて岩の間を抜けられないのなら「声の届くうちにすぐに」大声で叫ぶしかない。
経験の少ないダイバーは、動けなくなっただけでもパニックになる。なぜだか原因の想像がつかないからだ。それが予想外だからだ。
原因の想像がつけば、あれ、なんかひっかかった?となり、自分でそれをとれば、なーんにもトラブルですらない。
水中でのパニックを回避する方法は、
とにかくいろいろなことを想定の範囲内に置くこと
に他ならない。
想定外のことが起こるからこそパニックになり、大したことのない事象でも死につながる大事件になってしまうのだ。
しかしそれが、想像していた範囲のことなのであれば、いともたやすく回避できるなんということもない出来事になるのだ。
だからこそ、
ダイビングは記録をつけていくこと、経験をしっかりと次に生かして自分の想定範囲をとにかく広くしていくことが非常に重要であるということになるのだ。
写真は水中にて落ち着きの象徴とも思えるカエルアンコウ様。
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