…これ、意外といけるんじゃないか?
相方と二人、通勤電車のベンチシートの上で二人でスマホの画面をのぞき込んで生唾をごくりと飲み込んだ瞬間だった。
その日は朝から程よい暖かさと陽気の、本来何の変哲もない朝の通勤風景だったんだ。
ただ違ったのは、相方が合格したとある資格試験のために会社から出た報奨金で、ぜいたくな海外旅行から帰ってきた翌日であったということだった。
その旅行はあまりにも素晴らしかった。
仕事と関係のない海外旅行。
仕事と、全く関係のない、海外旅行。
旅行。
赴任ではない。
旅行。
そもそもオフと呼べる日が数か月に数日しかない生活を送っていた私にとって、プライベートでのリゾートの海外旅行、何の仕事もtaskもミッションもない海外旅行など、後から思えば全く想像の範囲内にはなかったんだ。だからその旅行に行く前には、海外でしょ、いつもと同じだよね、と、なんの感慨もなく望んでいたんだった。
でも、そうではなかった。
どこまでも続くエメラルドグリーンの海と宇宙を思わせる空、その青い空を切り取る白い雲や、漆黒の闇から今にも振ってきそうな星空にまみれる刹那。いわゆるリゾートと呼ばれるものがこんなにも心安らげるものであるという事実は、海外生活そのものにはいやというほどなれていた私にとっては、むしろ慣れすぎてしまっていただけに、それまで持っていた価値観を一気に1080°くらいひっくり返すことができるほどの衝撃のある経験であったんだ。
なんだこれは、こんなに心を揺さぶる経験が、海外旅行というものにあるものなのか。
それまでの海外での生活の経験が、良くも悪くも価値観を大きく動かした数日だった。
そしてその衝撃の海外旅行から帰ってきた翌日。
通勤電車の中。
そもそも行けたのは相方が会社から報奨金をもらうことができたからだった。
しかしマテよ?
自力で行ったらいくらくらいかかるものなんだ?
私の悪い癖がむくむくと蠢き始めた。
軽い気持ちで調べてみる。
エクスペディア。
検索結果。
え?
思ったほど高くない…
往復の航空券とホテル代を含め、3泊3日で6万円強。
これくらいなら、いけるんじゃないか?
相方にスマホを見せる。
驚く相方。
スケジュールを確認する。
空いてる。
◆◆◆
どうする。
どうする?
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